三文小説「PG・愛の嵐」 :-)

 空調の効いたマシン室にキーボードを叩く音が響く。
 寄り添う様に(寒いから)男女が指先を動かしている。
――話があるんだ
 女のモニタにウインドウが開く。
――納期も近いのよ?
――それでも、大事な話なんだ
――もう、何よ
――このプロジェクトが終わったら僕と
 男の手はキーボードから離れ、女の肩に触れた。
「僕と同じNameSpaceに入ってくれないか」
 女は一瞬嬉しそうな顔をしたが、俯く。
「・・・ごめんなさい」
「どうして!?」
「あなたのメモリにはまだあの人がリークしているもの」
「君との思い出がメモリを埋め尽くせば、自然にガーベジコレクションされるさ」
「それでもあなたは信頼性が低いの」
「確かに僕のセキュリティには脆弱性があるかも知れないでも」
「サービスパックを待てって言うの? それまでクラックに怯えてすごすのは私なのよ?」
 男は大きく頭を振った。
「バグはあるんだ! 僕にも! 君にも! 完璧なプログラムなんて無いんだ...」
 男は女をゆっくりと抱きしめた。
「未来を考えよう? 例えばほら、僕と君のサブクラスなんてとっても可愛いと思うんだ」
「・・・馬鹿。多重継承よ? バグが増えるわ」
「それでもいい。君とのバグなら、僕は何日デスマっても構わない」
 男は抱きしめる腕に力を篭めた。
「たとえ100年経ったって、君への愛に仕様変更は無いんだ」
 女は涙の浮かんだ瞳を隠す様に男の胸に顔を埋めた。
「馬鹿。・・・本当に馬鹿なんだから」
 空調の効き過ぎたマシン室の中、二人の影は重なった(寒いから)。
 二人の愛は放って置かれたイテレーションの如くバーンアップするのであった。


ああ、馬鹿だ。
何が馬鹿ってこんな事書いてる私が馬鹿だ・・・