わらびもち :-|

この間町を歩いていた時に、久しぶりにわらびもち屋の車と遭遇した。
――ああ、夏だな。
そう思うと同時に、一年前の自分を思い出す。


一年前の夏、私は小学校の用務員をやっていた。
半年更新の契約社員のようなそれは人に言えるような給料ではなかったが、
それでも私は頑張っていたのではないだろうか。


春湧き出ずる虫たちと戦いつつ草を毟り
夏の日差しに3度程脱水症状を起こしながら草を毟り
秋には毛虫に刺されながら草を毟り
真冬の寒さの中で凍えながら草を毟っていたわけだ。誇張ではなく。


まあそんな事はどうでもいい。
私が朝の挨拶を爽やかにかましても朝一から私の人格と人生を全否定する罵倒で答えてくれる相方とかもどうでもいい。
半ノイローゼになって校長に「もう辞めます」と言った時「ああ、あの人とじゃ無理だよな」と言われた事すらどうでもいい。
本当に誇張じゃない。でもどうでもいい。


そう、わらびもちだ。


「わらび〜もち、かきごおり〜」
の歌と共に現れるあの車は皆さんどこかで見たことがあると思う。
或いは歌だけでも聞いたことがあるんじゃなかろうか。
小学校で草毟りをしていた時、私はこの時期毎日のようにこの歌を聞いていた。


聞いたことがある人ならば、この歌に込められた哀しみと自嘲の響きを理解してくれるんじゃないだろうか。
私の耳にはこう聞こえていた。




Wanna be もち。かきごおり〜」




哀しい、とても哀しい響きだ。
「私はもう人間じゃなくていい。白く、どこまでも白く固まってしまいたい。
 ―そのまま凍えて凍りつき、粉々に砕かれてしまいたいんだ(意訳)」<なんでそんな事を言うんだ。あなたに一体何があったんだ>
私が沈んだ気持ちを抱えながら草を毟っていると彼女はまた繰り返し悲哀を叫ぶ。
「さ〜いらっしゃい、いらっしゃい」<あなたの落ちぶれた姿を見ろとでも言うのか!? そんな止めてくれ。止めてくれよ>
「ワンパック100円。ワンパック100円だよ〜」<なんで自分を安売りするんだ!! くそ・・・ごめん私には何もできやしないんだ・・・>


草毟りを続ける私の手に、小さな雫が一つ落ちた。
汗だ。暑いもんな。




まあなんていうか暇だったんだ。暑かったし。